削らない虫歯治療
むし歯を治すとはどういうこと?
歯を削るということは、どういうことでしょう。
歯は臓器ですから、それを削るということは「手術」のひとつと考えられます。
「手術による治療」つまり「外科的な治療」は大きく次の2つに分類できます。
その1 悪いところを取り去る治療
たとえば、がんの手術ではがん組織以外に周囲の組織を含めて取り除きます。胃がんであれば胃そのものも取り除くことがあります。胃を取ってしまうと胃は再生はしてきませんので、命は助かりますがその後の生活に程度の差はあれ支障が生じます。命と引き換えに多少の支障は我慢して生活していくことになります。また、手術をしたからといって、その後またがんになる可能性が減るわけではありません。
その2 取ったところを人工物で置き換える治療
変形性膝関節症では、悪くなった膝関節を人工関節で置き換えます。手術後良好に回復すればほぼ日常生活は可能になりますが、やはりある程度の制限は必要になります。
また、人工関節は磨り減ってしまうことがあるので、10年で5%、15年で10%程度再手術が必要になるとされています。
むし歯の治療も「悪いところを取り去り」「人工物で置き換える」という「外科的な治療」であるところは同じです。とすると、やはり同じような問題が生じると考えられます。
むし歯治療の問題点
むし歯の治療も外科的な治療
むし歯の治療も「悪いところを取り去り」「人工物で置き換える」という「外科的な治療」であるところは同じです。とすると、やはり同じような問題が生じると考えられます。
問題1
むし歯を削って直したとしても、術後に多少の支障が生じる可能性がある。
自然の歯に較べると、人工物は機能的に劣ります。特に神経をとってしまった歯、ブリッジ、義歯は明らかに劣ります。
問題2
むし歯を削って直したとしても、またむし歯になる可能性が低くなるわけではなく、将来再治療が必要になる可能性がある。
過去に治療したところは再度悪くなる確立が高くなります。
もし「治す」と言う言葉の意味が「本来の正常な状態にもどす」と言う意味で使われるのであれば、むし歯は本当に「削って詰めればば治る」病気といえるでしょうか?
削らないむし歯の治療?
では、単純に「削らなければいい」のでしょうか?
あながあいてしまったむし歯は、そういうわけにはいきません。
むし歯をそのままにしておくと
そのままにしておくと、神経のある歯ではかなりの確率で痛みが出てきますし、神経がない歯では痛みは出にくですが(一度神経をとってしまった歯はむし歯になっても痛みません)、そのため発見が遅れるのでむし歯が進行し結局抜歯になってしまう可能性が高くなるからです。
ではあながあく前の初期むし歯ならば?
その場合は、削らなくても進行を止める治療が可能になります。
むし歯で歯を削らないためには
- むし歯にならない
- 初期むし歯のうちに発見し、あながあく前にむし歯の進行を止めて、あながあかないようにする
ことが重要です。
むし歯の予防法として現在有効と考えられているのは
- 食生活習慣の改善
- フッ素の利用
です。
歯磨きについては、むし歯の予防に関してはある程度の効果はありますが、上記の2つに比較するとその予防効果は低いと考えられています。
むし歯にならないために むし歯は食生活習慣病
むし歯の原因は細菌です。しかし、同じ細菌が原因の病気でも食中毒や伝染病とは違い、原因菌がいるだけでは発症しません。(むし歯の原因菌はほぼすべての人の口の中にいます)
むし歯の発症には「食生活習慣」が大きく関係しています
確かに「むし歯になりやすい食べ物」と言われる食べ物はあります(お菓子など砂糖を多く含む食べ物がその代表例です)。こういった食べ物をいっさい食べなければ確かにむし歯にはなりにくくなります。でも、多くの人にとってそれは可能でしょうか?
「甘い食べ物」は、栄養補給のために食べるのではありません。それを食べることは精神的な要因がかなり強く、ある種の「依存性」があると思われます。ですから、ダイエットはとても難しいことなのです。難しいからこそ、ダイエットは女性向け雑誌記事の定番になっているのです。
あなたは「甘い食べ物」をやめることができますか?
むし歯になりにくい食べ方
むし歯と食生活の関係について
過去に行われた興味深い研究があります。
「ビペホルムの研究 Vipeholm dental caries study」(Gustafssonら,1954)
この研究では、しょ糖(砂糖)の摂取とむし歯の発症の関係について次のような結果が得られました。
(ⅰ)しょ糖を食事の時だけ摂取した場合はむし歯の発症は少なく、特に問題がない。
(ⅱ)しょ糖を食事と間食の両方で摂取するとむし歯の誘発性が高くなる。
(ⅲ)間食として摂取するときは、その性状むし歯誘発性が異なる。
間食として歯に付きやすいしょ糖を含む食べ物を摂取するとむし歯が増加しやすい。
つまり「どのくらい甘いものを食べるか」ではなく「どのように甘いものを食べるか」が 重要である ということです。
- 甘いものを食べるのであれば、間食として食べるのではなく食事と一緒に食べる。ただし歯にくっつきやすいもの(キャラメルやトフィーなど)や、長時間口の中に残るもの(キャンデー、チュッパチャップスなど)は、できるだけ控える。
- 間食はしない。もし間食をする場合は、むし歯にならない代用糖を使用したもの(キシリトールガムなど)を食べる。
- 寝る前の飲食は控える。寝ている間は唾液分泌量が減るので、むし歯ができやすい状態になっているため。
フッ素の有効な利用
むし歯の予防において、「食生活の改善」の次に有効なのが、フッ素を適切に使用することです。「むし歯予防のための歯磨き」においては、「どのように磨くか」よりも「どのようにフッ素を使用するか」のほうが重要です。
フッ素の使用法はおもに
- 歯科医院でフッ素を塗布してもらう
- フッ素入りの歯磨き剤を使う
- フッ素のうがい剤を使う
があります。
各々をどのように組み合わせるがは、年齢、むし歯のなりやすさ、生活習慣などにより異なりますので、歯科医師の適切な指導を受けることが重要です。
当院では、現在明らかにされている科学的根拠に従って、フッ素の使用を指導しております。
大人の方に知っておいていただきたいこと
「フッ素は子供だけのものではなく、成人のむし歯の予防にも有効である」ということです。
成人のむし歯の場合、子供のむし歯と異なる点は
- 歯の根のむし歯
- かぶせもののの中(特に神経のない歯)のむし歯
であり、その予防は年をとっても歯を残すために非常に重要です。このような成人のむし歯の予防においても、フッ素の使用は重要です。